サービス提供戸数、12.9%増【拡大続く全戸一括型インターネット】

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商品|2023年10月25日

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 賃貸住宅において必須の設備となりつつある全戸一括型インターネットサービス。入居後すぐに無料で利用できるうえ、高速で安定した通信品質を提供するサービスも増えてきた。本特集では、マンションISP(インターネット接続事業者)各社の取り組みを紹介する。

賃貸向けが成長をけん引

500万戸を突破 高水準で増加傾向

 ICT(情報通信技術)市場の調査・コンサルティングを行うMM総研(東京都港区)が8月に発表した「全戸一括型マンションISPシェア調査」によると、3月末時点の全戸一括型マンションISPによるサービス提供戸数が500万戸に達した。前年の増加率はやや下回ったものの、12.9%の成長率となった。2ケタ成長を維持する背景には、新築賃貸マンションの竣工数の回復と、入居促進を期待するオーナーの採用率が継続して上昇していることがある。

提供戸数の推移グラフ

 事業者別のシェアでは、つなぐネットコミュニケーションズ(以下、つなぐネット:東京都千代田区)が19.3%で6年連続の首位となった。2位には、11.2%のシェアで東京電力グループのファミリーネット・ジャパン(東京都港区)、続いて、大和ハウスグループのD.U‐NET(ディーユーネット:東京都新宿区)が10%のシェアを獲得している。

現場主義を徹底 通信以外にも注力

 事業者別シェアで6年連続首位となったつなぐネットは、賃貸や分譲、新築や既築といった全カテゴリーで高い品質の通信環境を提供できることが強みだ。

 親会社のアルテリア・ネットワークス(東京都港区)が保有する通信設備をバックボーンのインフラとして利用することで、品質を担保する。万が一、通信に不具合があった場合でも、グループの設備であることから何が起きているか把握できる体制となっているため、迅速かつ的確な対応が可能だ。

 22年4月に経営トップに就任したつなぐネットの森谷和德社長の方針として「現場主義」を徹底。社内連携を重視した積極的なジョブローテーションを行いながら、営業力の強化にも取り組む。池田幸一執行役員は「単なる通信サービス会社ではなく『マンションサービスプロバイダー』であるという意識を全社員が持っている。『お役立ちの精神』と『マーケット・インの発想』で新しいニーズやビジネスチャンスがあれば、積極的に挑戦する」と話す。実際に、物件に合わせた防災施策の支援や衣料品のリユース・リサイクルの実証実験など、通信とは直接関係のないサービスの提供や取り組みを行っている。

 つなぐネットが小規模賃貸集合住宅向けに展開するサービスは20年に開始した「UCOM(ユーコム)光レジデンスFive.A(ファイブエー以下、Five.A)」だ。Five.Aを中心とした賃貸集合住宅向けの契約件数は全体の約3分の1を占め、堅調にその数を伸ばしている。

設備増強に積極的 脱炭素事業支援も

 ファミリーネット・ジャパンの23年3月末時点の提供戸数は約55万8000戸(前年比2万6000戸増)となった。防犯に対するオーナーや管理会社の関心の高まりから、防犯カメラとセットでのサービス提供は付加価値が高いという。販売本部営業第二部の笠原亨介部長は「新型コロナウイルス禍による生活様式の変化で一時的に高まったネット需要は、すでに落ち着いている。一方で(ネットコンテンツの視聴などによる)通信量のピークは高まっており、通信トラブルを未然に防ぐためにも設備増強には積極的だ」と話す。

 東京電力グループの同社では、賃貸住宅の脱炭素化推進を支援するサービスに取り組んでいる。新築物件のZEH―M(ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)において、ZEH―M補助事業執行団体への実績報告業務の負荷を軽減するものだ。

脱炭素化事業を支援する(ファミリーネット・ジャパン)

脱炭素化事業を支援する(ファミリーネット・ジャパン)

 全戸一括型ネットサービス「iのぞみネット」を介し、各住戸の分電盤に設置された電力センサーが取得した電力および都市ガスの利用データを、同社のデータセンターに連携。エネルギーの利用状況を棟および住戸単位で整理し、管理会社へ報告する仕組みだ。10日時点での導入棟数は15棟となる。補助事業では一定期間の執行団体への実績報告が求められることから、管理会社の事務処理における負担軽減を図っている。

管理部門と協力 建物保守も展開

 大和ハウスグループのD.U‐NETは、3月末時点の提供戸数が50万戸(前年比4万1000戸増)となった。同じく大和ハウスグループの大和リビング(東京都新宿区)が管理する賃貸住宅へのネット通信サービスを提供している。

 大和ハウス工業(大阪市)が手がける新築アパートへの導入に加え、大和リビングが管理する約65万戸の既存物件のうちネットサービスに未加入の物件への導入が進む。ネットサービスと併せて提案する製品の一つが、スマートフォンで各種操作ができ、着荷の通知を受け取ることができる宅配ボックス「D―room BOX(ディールームボックス)」だ。スマホ以外にICカード、暗証番号による解錠にも対応するほか、荷物を発送したいときに集荷手配も可能。そのほか、クラウド型防犯カメラも人気が高いという。

 4月から開始したのが、ドローン(小型無人機)を活用した高所メンテナンスサービスだ。屋上に設置されている太陽光パネルの洗浄に加え、賃貸住宅の屋根の保守・点検、雨どいの排水状況の確認などを行う。足場の架設や作業員の負担を抑制することで、建物管理業務の効率化を図る狙いだ。青木裕介事業統括部長は「当社は管理会社系で唯一のマンションISP。オーナーの悩みに接しやすい立場にいることから、管理部門と協力しながらサービス品質の向上に努めたい」と話す。

ドローンによる太陽光パネルの洗浄の様子

ドローンによる太陽光パネルの洗浄などを行う(D.U‐NET)

IoT機器を開発 独自製品、特色に

 3月末時点の提供戸数が約52万5000戸(前年比9万戸増)となったファイバーゲート(東京都港区)。管理会社を中心としたパートナー企業を通じて既存物件のオーナーへ提案するほか、デベロッパーとの連携を進め、新築時の導入提案を強化している。提供戸数のうち新築の割合が3割以上を占めるようになり、年々増加傾向にある。

 サービスの導入提案時には、ネットインフラを活用できる設備の導入も勧める。特に需要の高いクラウド型防犯カメラは、1年前から、ネットサービスとセットにして導入提案を行っている。一定量の防犯カメラをまとめて仕入れることで単価を下げ、低コストでの提供を実現。クラウド型防犯カメラはレコーダーの設置が不要で、遠隔から映像を確認できるなどのメリットがあり、導入は好調だという。

 また同社では、IoT製品の企画・開発を手がける。これまでに、さまざまなセンサーを組み込んだスマートロックやIoT機器を開発しており、現在はネット対応型インターホンの普及に注力する。東京23区では10ギガ対応の通信サービスも提供し、今後は対象エリアを拡大していく方針だ。ホームユース営業本部東日本営業部の大倉立雅部長は「自社製品の展開と併せて、高速化や品質にもこだわっていきたい」と話す。

OEM数堅調 導入拡大に寄与

 名古屋証券取引所ネクスト市場に上場するギガプライズ(東京都渋谷区)が提供する、集合住宅向けISPサービスの提供戸数が堅調に伸びている。

 21年3月末時点の74万5000戸から安定的に毎年約15万戸、提供戸数を伸ばし、23年同月末時点で、OEM(相手先ブランド生産)を含む提供戸数が105万1000戸となった。

 同社の強みは、多様な取引先からの多数の回線調達により、回線原価を抑え、高品質なサービス提供を行っている点だ。専任スタッフによる24時間365日対応のサポート体制で、トラフィックの常時遠隔管理や機器の死活監視を行い、障害発生時に適切な初動対応をすることができる。

ギガプライズが提供しているクラウド型防犯カメラ画像

ギガプライズが提供しているクラウド型防犯カメラ

 自社ブランドの賃貸住宅向け「Rent Agent(レントエージェント)」と分譲住宅向け「My(マイ) Agent」の供給に注力しながら、大手ハウスメーカーへのOEM提供も行う。これにより、建て替え需要などによる新築物件への導入などが進み、安定的な受注を実現している。

 24年4月期第1四半期においても、総戸数109万8000戸、増加戸数4万7365戸(対通期予想達成率27.1%)と堅調な伸びを見せており、24年4月期通期は122万6000戸となる予定だ。

 同社ではISPサービスの付加価値向上のため、IoTソリューションサービスにも注力する。防犯需要にはクラウド型防犯カメラやスマートロックなどを提案。23年5月には、顔認証プラットフォームを提供するDXYZ(ディクシーズ:東京都新宿区)と業務提携し、提供するIoTサービスのラインアップの拡充を図っている。

 価格競争が進んでいる印象の全戸一括型ネットサービス。今後は、マンションISP各社が独自の強みを発揮する必要がありそうだ。

ソニーネットワークコミュニケーションズコネクト、速度10Gbps開始

高品質のネット需要に対応

 「NURO(ニューロ)光」を集合住宅向けの全戸一括型ネットサービスとして提供するのがソニーネットワークコミュニケーションズコネクト(以下、SONYNCC:東京都品川区)だ。

 SONYNCCが提供する「NURO光Connect(コネクト)」は、FTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム))方式を採用しており、光回線を基地局から各住戸まで直接引き込む仕組みのため、回線速度低下が発生しづらい。「Wi‐Fi6」に対応したソニー(東京都港区)製のONU(光回線終端装置)との組み合わせで、安定したネット環境を実現する。

 サービスの開始当初から下り最大2Gbpsの回線速度を提供している。テレワークの定着で、より高品質なネット回線需要に応える。

 2月には宮城県仙台市など東北エリアと1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)から回線速度10Gbpsプラン「NURO光Connect10G」の提供を開始。10月5日には北関東3県(群馬、栃木、茨城)エリアでも同プランの利用が可能になった。

 マンションデベロッパーとの共同企画で、ゲーミングルームを完備したコンセプト型の新築物件も企画中だ。防音や高品質なネット回線にこだわっている。サービス開始は2019年4月と、ISP事業者としては後発になる。しかし、高品質な回線を軸に、スマートロックを製造するQrio(キュリオ:東京都渋谷区)など、ソニーグループ(東京都港区)のリソースを生かして、22年比伸長率40%と提供回線数を伸ばしてきている。

ビーマップ、複数物件間でWi‐Fi共有

60GHz帯利用で混信回避

 無線LANシステムの開発・販売を手がけるビーマップ(東京都千代田区)は、集合住宅向けクラウド型Wi―Fiサービス「アパらくWi―Fi」を提供している。

 管理会社が、物件に導入したネットの利用状況をクラウド上で管理・確認することができる。遠隔で通信状況の確認や接続・遮断などの設定変更を行ったり、入居者のネット利用率のデータをオーナーへの設備提案に使用したりといった活用方法を想定する。

 中継機の設置により、一つの物件に引いた回線を近隣物件と共有する「回線シェアプラン」も大きな特長。回線費用が1回線分で済み、ランニングコストが低減できる点がメリットだ。日本ではまだ利用が少なく混信が起きづらい60GHz帯の無線規格を利用することで、複数物件間での共有でも安定した通信を提供できる。回線を共有する二つの物件を完全に遮る別の建物がある場合には導入が難しいが、道路や低い建物などであれば中継機の設置の工夫で導入が可能だ。

アパらくWi―Fi中継機写真

道路を通る車などからの影響を避けるため、中継機は2階部分に設置している

 1月には、約1万戸を管理するアミックス(東京都中央区)の管理物件で回線シェアプランを導入した。同一オーナーが持つオフィスビルと18戸の賃貸住宅で回線を共有。二つの建物の間には道路があるが、7月に実施した入居者に対するアンケートでは、回線の速度や安定性について、おおむね満足しているという結果が得られた。

 アパらくWi―Fiは1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)を中心とする関東圏で提供されている。全国での提供を目指し、エリアを順次拡大する予定だ。

(2023年10月23日10・11面に掲載)

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