モンスタークレーマーから社員を守る 管理会社の取り組み
管理・仲介業|2023年10月23日
顧客の理不尽な態度やエスカレートしたクレーム案件への対応に、多くの管理会社が苦慮しています。心身共に疲弊したスタッフが休職や退職に至るというケースも少なくありません。モンスタークレーマーから、社員を守るすべはあるのでしょうか。各管理会社に対策を聞きました。
§1 炎上するクレームの特徴
入居者からのクレームは、主に設備関連とモラル関連のクレームに分けられます。設備関連のクレームは、エアコンや給湯器が使えない、インターホンが映らないなど、設備不良が原因で、ほとんどのクレームは設備を交換すれば対応が完了します。これに対してモラルクレームは、近隣騒音やごみの不法投棄、違法駐車など、個人の良識や社会的習慣の相違などに起因することが多く、長期化しやすい傾向にあります。「近隣同士のトラブルは、どちらかが引っ越すまで解決できない」との声もあり、管理会社はゴールの見えない対応に苦慮しているようでした。
§2 管理会社に聞いた クレーム内容の内訳
発生したクレームの内訳を見てみると、設備クレームについては7社が6割程度と回答しています。一方、モラルクレームで多いのは3割程度。少ないところは1割です。数字だけ見ればモラルクレームが少ないようですが、モラルクレームの場合、社員が現地まで行って対応したり、長期にわたって対応を求められたりと、拘束時間が長くなります。それが、およそ3~5件中1件の割合で発生していると考えれば、数字以上に管理会社の負担が大きいのではないかと思われます。
§3 クレーム対応、どんな体制で行っている?
クレーム対応の体制は、各社ばらつきがありました。コールセンター業務は9社中7社が完全に外注していると回答。静岡県のH社は、営業時間内だけ自社で対応し、時間外は外注しているそうです。また、九州地方を商圏とするI社は駆け付けサポートサービスを提供する会社と契約し、サービス対象外の案件のみ(約3割)自社で対応しているそうです。
今回の取材では、多くの会社がコールセンターを活用していましたが、問題は、そこで解決できなかった場合です。各社どのように対応しているのか聞いてみたところ、A社、E社、F社、H社は、クレームの内容を聞き、対応部署を吟味して引き継いでいるとのことでした。体制としては、クレーム負担が1カ所に集中しないように、あえて専任担当は設けず、全社員で対応している場合と、1カ所にまとめて対応する場合の2通りに分かれるようでした。
また、実際にクレーム対応している人は、経験豊富なベテラン社員や中途採用の社員が多いようです。クレームの場合、もともと相手が怒っているため、経験の浅い若手社員が対応すると一層怒りを買ってしまい、最悪の場合、社員の退職につながることもあると言います。さらに、クレーム対応は社内でも例外的な方法で処理することが多いため、裁量のあるベテラン社員でなければ、社内の調整が難しいとのことでした。
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§4 管理会社に聞いた、カスハラ対策の取り組み
東京都で8000戸を管理するC社は、区分所有のマンションを販売し、売却後の賃貸を管理する業務を行っています。社内には売買仲介、賃貸仲介部門がありますが、実際にクレームに対応している管理部の状況や事情が、共有されにくいという課題がありました。そこで、管理部の責任者が、スタッフの抱える現状の課題や顧客への対応内容などを、常に把握するようにしたそうです。個別の面談を頻繁に行い、スタッフのキャパシティーがオーバーする前に、管理部の責任者がケアするようにしています。しかし、管理部門しか業務の実態がわからない状況は会社としてよくないため、いずれは新卒社員に業務実態の研修を徹底して行い、一度は管理部門に配属する体制を整えたいと考えているそうです。
神奈川県で2万3000戸を管理するG社は、減額や引っ越し費用の要求など、理不尽な金銭要求につながる案件は、会社がカスタマーハラスメント(カスハラ)案件と認定し、エリア所長が対応しています。もともとは、自分の顧客からクレームが挙がっていることを上司に知られると、評価が下がったり上司の機嫌を損ねたりするのではないかという不安から、できるだけ上司に知られないようにと、抱え込んでしまう社員が多かったそうです。そこで、大炎上した場合のルールを現場に周知し、現場スタッフが上司に相談しやすい環境をつくる狙いもあったといいます。また、担当者の社用携帯電話は、帰社時に社内で保管するようにしています。いつまでも電話がかかってくる状況を防ぐためです。これについては、ほかにも2社が実施していました。
神奈川県で1万戸を管理するF社は、クレーム内容によって対応する部署を振り分けています。入居者対応の専門部署を設けず、例えば、入居して1カ月以内のクレームで「設備が整っていなかった」「想定と違った」「聞いていた話と全然違う」といった設備の不備や説明不足に起因する内容であれば、仲介部門の説明が足りないと判断して、仲介部門に対応してもらうといいます。これによって、クレームが1つの部署に集中するのを回避できます。さらに、すべての社員がクレーム対応する可能性があることから、クレームにつながりそうな芽は徹底的に自分のところでつんでおきたいという意識が芽生え、全体的に質が上がったそうです。また、入居審査も10年ほど前から厳しくしており、クレームの数は減ってきているとのことでした。
埼玉県で2万戸を管理するB社は、カスハラの対策セミナーを社員向けに実施しています。10年前に、入居者を訪問した社員が殴られて大怪我をしたことがあり、それ以来、炎上している案件は必ず複数名で訪問することをルール化し、目の前の顧客が何に怒っているのか、なぜ怒っているのか、その心理を学ぶ講義もセミナー内で取り扱っています。相手がどのような心理状況にあり、何がその人の怒りにつながっているのか、それに対してどう対応すべきかを事前にわかっていれば、もう少し円滑なコミュニケーションができると考えています。
§5 カスハラ対策 まとめ
今回の取材のポイントをまとめると、まず、社員が「守られている」と思える体制を会社側が用意し、社員の精神的な安定を維持する必要があると感じました。また、対応する人材の確保も非常に困難なうえ、クレーム対応の業務があるというだけで新卒採用にまで影響が出ているという課題があり、その課題解決のために、クレーム対応を外注化する流れが加速しています。今回の取材では、9社中4社から「すでに外注での対応を検討している」「外注でやろうと思っている」との回答が得られました。