不動産ビッグデータを活用したサービス開発を主軸事業とする住宅テックラボ(東京都足立区)。不動産業界の活性化に向けたサービスを積極的に展開していく。
管理受託サポート皮切りに
膨大なデータ活用 日々400万件収集
―不動産に関する大量の保有データが事業の根幹になっていると思いますが、会社の特長やサービスの開発方針について教えてください。
まず、私の経歴として、大学卒業後に船井総合研究所(大阪市)に入社し、企業の経営戦略の立案などに携わっていました。対象とする業種の一つに不動産業界もあり、そこで賃貸管理会社や売買仲介会社向けの業務支援も経験しています。その後、全国賃貸管理ビジネス協会(東京都中央区)に入社。管理会社の知見の集約・共有を目的にした全管協総研(東京都千代田区)での勤務などを経て、不動産の管理や仲介における知識をより深めてきました。
一方、当社の共同創業者である白井久也は、複数の金融機関を経て独立し、2016年から世界17カ国の不動産や地理に関する情報データベースの構築を手がけてきました。これまで蓄積してきた物件管理の経験と、膨大かつ精度の高い不動産ビッグデータの融合をコンセプトに設立したのが住宅テックラボになります。
―保有データの件数はどのくらいあるのでしょうか。
累積のデータ量は1700億件に上り、日々400万件ほどの情報を更新し続けています。査定系やレポート作成系のサービス提供会社と比較しても保有するデータ量は2桁くらい多いのではないでしょうか。一つの物件情報を緯度、経度、家賃、設備など784の要素に分解し、それぞれを組み合わせて各種サービスにおける情報の充実につなげています。
家主リストを提供 補足情報も付与
―提供するサービスについて教えてください。
管理会社を対象にした、オーナーへの各種提案資料を作成するツール「縁(ENISHI)」のほか、金融機関に向けて担保物件の価格査定ツール「プロップレポート」を提供しています。
縁(ENISHI)は、家主や物件の情報を一元管理し、管理会社の業務効率化や売り上げ向上につながる機能を備えたアプリケーションプラットフォームです。機能の一つが家主情報の取得と管理ができる「ENISHIオーナーサーチ」です。物件の所有者事項の取得代行サービスで、管理受託の営業提案先となるオーナーリストを作成します。不動産登記簿から拾えるデータを見やすく整理したうえで、過去の募集履歴や入居率、周辺の競合物件などの情報を当社で付け加えて納品するのが特徴ですね。データはブラウザーで半永久的に何度でも確認することができます。
縁(ENISHI)は月額1万1000円(税込み)で加盟いただくサービスで、加盟企業にはENISHIオーナーサーチを1件あたり385円(税込み)でご利用いただけます。
―プロップレポートは金融機関向けのサービスですね。
区分マンションの時価査定ツールで、ビッグデータとAI(人工知能)を活用して査定価格を算出します。スキームは異なりますが戸建てや一棟ものにも対応可能です。一定のロジックに基づき、需要を予測して査定を出すため、信ぴょう性のある提案ができます。
査定においては、依頼先の会社や担当者によって査定額が異なったり、大手デベロッパーのブランド価値を把握しきれなかったりなどの課題を抱えていたと思いますが、これらをクリアできる点が強みです。24年2月7日時点で縁(ENISHI)は33社、プロップレポートは87社に利用いただいています。
機能充実に注力 利用層拡大目指す
―今後、どのようなサービス展開を考えていますか。
将来的には、不動産会社と金融機関が直接やりとりできるプラットフォームを構築したいという思いがあります。現在、不動産会社がオーナーへ提案するのは空室対策や設備刷新などが主流ですが、不動産オーナーを富裕層と捉えると、海外でいうところのプライベートバンカーに近い立場にあってもおかしくないはずです。オーナーの資産形成に対して積極的に金融商材を提案できるような状況をつくっていきたいとの考えです。
ただ、一足飛びには進めないので、まずは現在提供しているサービスのバージョンアップを着実に進めていきます。ENISHIオーナーサーチでは、作成したオーナーリストに対してDM(ダイレクトメール)送付サービスやアポイントメント調整の架電サービスをオプションで付けていきます。
4月には、管理会社向けの「不動産査定レポート」もリリース予定です。プロップレポートと同様のサービスになりますが、オーナーへの提案時に活用しやすいよう、見栄えを整えたレポートを出力できるものとして提供していきます。
―不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は今後も進みそうでしょうか。
10年前と比較すると、ITツールやDXへの不動産会社の興味・関心は確実に高まっていると感じます。一方でその割合はまだまだ小さいというのも正直な実感です。数千戸を管理する規模の管理会社はそれなりにDXへの投資ができますが、管理戸数が数百戸規模の会社や家族経営の会社が多くを占める不動産業界において、彼らがデジタルツールを活用しないと業界全体としては広がっていかない。障壁の一つとなるコスト面において、当社のサービスは業界最安を目指して設計したので自信はありますが、まだ高いという意見をいただくこともあります。もっと使い勝手を改善したうえで、「いつの間にかデジタルの恩恵を受けている」という状況をつくっていくことが普及へのカギになると思います。
会社概要
社名:住宅テックラボ
設立:2022年9月22日
資本金:1億4800万円
本社所在地:東京都足立区
事業内容:不動産情報配信・分析、サービス開発受託、コンサルティング
住宅テックラボ
東京都足立区
梶 宏輔 社長(33)
東京都練馬区出身。青山学院大学理工学部経営システム工学科卒業後、2013年に船井総合研究所に入社。企業の経営戦略の立案などを担当したのち、賃貸支援部で不動産会社の業務支援などを経験。21年に全国賃貸管理ビジネス協会に入社。その後、全管協総研で、管理会社の知見を集約しながらサービスを提供。22年9月に住宅テックラボを設立。
(2024年3月4日10面に掲載)