一般社団法人日本ホームステージング協会(東京都江東区)が主催する、ホームステージングに関する資格「ホームステージャー」の保有者は全国に約5000人まで増えた。ホームステージングによる物件成約の効果だけでなく、その在り方や基本となる考え方について、杉之原冨士子代表理事に聞いた。
資格保有者5000人に拡大
有資格者の約半数 不動産会社占める
全国に約5000人の資格保有者がいるホームステージャー。空室の空間を演出することで入居後の暮らしをイメージさせ、入居促進につなげるホームステージングのスキルや知識を認定する資格だ。
同資格を運営する日本ホームステージング協会は、2013年に設立し、ホームステージングの普及とホームステージャーの養成に注力してきた。受講者の職業別内訳を見ると、不動産仲介業・不動産管理業が47.7%と約半数を占める。実務でも活用できる資格として取得が進む。
同協会は、年に1度、不動産会社・ホームステージング事業会社を対象に、各社のホームステージングの取り組み状況のアンケート調査を実施。統計データを「ホームステージング白書」として公開する。
ホームステージングの認知と普及のために「ホームステージングコンテスト」も開催。賃貸、売買、居住中、リフォーム、バーチャルの5部門でホームステージング事例を競うイベントも主催している。
「豊かな生活とは?」 整理・梱包業で起業
同協会を設立し、旗振り役を担ってきたのが、杉之原代表理事だ。
杉之原代表理事はホームステージングについて「本質は、ライフステージに合った暮らしを演出すること。空室の成約は一つの結果でしかない」と話す。
杉之原代表理事が「暮らしのイメージを持つ」ことの重要性に気付いたのは、仕事で居室の片付けを手がけたことがきっかけだった。
専業主婦だった杉之原代表理事は、運送会社のパートスタッフとして勤務を始めた。数年事務作業を担当した後、社員として営業職に転籍。引っ越しの現場に何度も立ち会ううち、高齢の依頼者が多く、高齢であるほど荷物が多いことに気が付いた。トラック1台では積み切れないケースや、自分では荷造りができないと、梱包(こんぽう)を依頼されるケースも多々あった。梱包作業を行いながら「運び切れないほどの荷物を持っていってしまっては、新居も物であふれてしまう。それは豊かな暮らしなのだろうか」と感じた。
そこで杉之原代表理事は「梱包の前に片付けをすれば引っ越し先でも余裕のある暮らしにつながる」と考えた。社内に梱包の専門部署を立ち上げたことを機に、のちに個人事業主として独立。片付け、梱包業での起業に至った。
ある時「自分の家を売りたいが、片付かない。売るためにきれいに片付けてもらいたい」という依頼に出合った。実際に片付け後の室内写真を撮影したところ、すぐに購入者が見つかり、これはビジネスチャンスになると考えた。
「売れるための部屋の片付け、請け負います」
杉之原代表理事は先の実績を手にチラシを作り、近隣の不動産会社を回った。だがすべて断られてしまう。その理由は、売主に対し、暗に『片付けられない人だ』と言っているように見えるからだという。「『そんな失礼なことをしたら媒介契約をしてもらえない』と口をそろえて言われてしまった」(杉之原代表理事)
そこで今度は「片付け」の言葉が持つマイナスイメージの払拭に動いた。調べていくと、「ホームステージング」という言葉に出合った。
ホームステージング発祥の地アメリカでは、インテリアを整えると不動産の成約につながりやすいということで、1970年代から販売物件に家具を置く、ホームステージングが当たり前のように行われていた。杉之原代表理事は思い切ってアメリカに向い、考え方を学んだ。ホームステージングにより内見者はさらに暮らしのイメージを持ちやすくなる。
そして日本でもホームステージングを広めようと、日本ホームステージング協会を設立するに至った。
ペルソナ設定が鍵 6割強が短期成約
暮らしをイメージさせるホームステージングは、適切な入居者のペルソナ設定が鍵になる。室内の設えがターゲットに合っていないとちぐはぐになり、かえって成約から遠のくリスクがある。内見者がその部屋での生活をイメージできなくなってしまうからだ。そのため、同協会で行うホームステージャーの認定講座では、物件概要で重要視すべきポイントなども説明する。
家具を置けばよいというものではなく、地域性や賃料、間取り、物件のほかの入居者らを調査し、適切なホームステージングを行うことで短期成約に結びつけることができるとする。
実際に「ホームステージング白書2022」の調査では、ホームステージングを実施した物件の71%が、それまで入居付 けが困難な物件・長期空室物件であったにもかかわらず、ホームステージングの実施後1カ月以内に成約に至ったという調査結果が出ている。
「賃貸住宅ではそもそもホームステージングを行う事例自体が多くないため、適切に行うことで差別化につながる。『将来の暮らしをイメージできるような空間の演出』であることをしっかり念頭に置き、効果の高いホームステージングを行ってもらいたい」(杉之原代表理事)
ホームステージングの認知の向上・普及に向け、地方での実践講座も進めていく。
(柴田)
(2024年5月13日24面に掲載)