不動産取引の電子契約が18日に全面解禁され、不動産会社が電子契約の実施に本腰を入れ始めている。ただ、管理物件に客付けを依頼する仲介会社の理解を得るのが普及へのハードルとの声も上がった。
≪電子契約の全面解禁とは?≫
宅建業法の改正により、不動産取引時の契約書面(35条・37条書面)の電子交付が可能となり、宅地建物取引士の押印が不要となった。
①書面の電子交付の前に借主、貸主に事前の承諾を得る②書面が改ざんされていないことが証明できるよう電子署名かタイムスタンプが必須などの注意点もある。
アパマン「コスト半分以下」
18日に施行された改正宅地建物取引業法により、契約書面の電子交付が可能になったことで、各社、賃貸仲介の電子契約に乗り出す。
APAMAN(アパマン)グループで9万戸超の賃貸管理と賃貸仲介事業を行うApamanProperty(アパマンプロパティ:東京都千代田区)は、業務フローの確認後、24日から仲介時の電子契約を本格的に開始した。
堀巌太取締役は「契約書類の電子交付により、これまで管理会社、仲介会社、借主との間に4~5回発生していた郵送業務がなくなる。コストは半分以下になり、契約に要する時間が短縮でき、大きなメリット」と話す。
同社は2018年から、ドキュサイン・ジャパン(東京都港区)の電子署名サービス「DocuSign(ドキュサイン)」を利用。申込時の電子署名のほかに、21年からはサブリース時の電子契約を推進してきた。契約書面の電子交付解禁に伴い、賃貸仲介においても積極的に電子契約を実施していく。
今後の課題は、管理物件を他社が仲介する際、電子契約のハードルをいかに下げていくかだ。「パートナーの仲介会社向けのシステムでは直感的にわかる画面にし、電子契約の業務の流れを説明する資料を作成するなどして、周知を進めていく」(堀取締役)
事前承認もウェブ対応
管理戸数約5500戸の湘南らいふ管理(神奈川県藤沢市)では、19日から電子書面交付を含む電子契約を実施できる体制で臨む。24日時点での実績は3件だ。同社は管理を受託する約600人すべての家主と代理権委任契約を結び、家主に代わり電子署名ができる。
電子署名サービスと併せ、自社開発の申し込みシステムを活用する。廣瀬一寛取締役は「電子書面交付を含む電子契約の事前承認は、申込時に行うことを想定。顧客が同意の有無を確認できる機能の開発を進めており、機能実装以前の契約に関しては、口頭で承認確認をしていく」と話した。
業務削減効果に期待
千葉県内で物件を多数管理するアービック(千葉県市川市)では、利用する電子署名サービスのシステム開発のめどが立つ7月上旬より、電子書面交付を含む電子契約を本格的に開始する予定だ。
同社の管理物件のうち、代理権委任契約を結び、家主に代わり電子署名をすることが可能な物件は8割を占める。そのため賃貸仲介時の電子契約についても自社で進めていくことが可能とみる。
まずは、管理物件を自社で賃貸仲介する際の契約で、電子書面交付を実施していく。
賃貸営業部店舗サポート課の柴峯武英課長は「顧客にとっては、部屋探し時と契約時の複数回の来店という負担が減るのが最大のメリット。契約関係書類の郵送までの準備に1件約15分かかっていたのが、送信ボタン一つで完結する。業務効率化にも期待する」と語った。
(2022年5月30日1面に掲載)