生活様式の変化によって賃貸住宅におけるインターネット設備の需要が高まっている。見守りシステムやIoT機器を利用するにも欠かせないインフラ設備としても活用が広がっている。今回は管理会社やオーナーに、変化するインターネット設備需要を取材した。
生活の変化でさらに増す需要
入居者が無料で利用できるインターネットは、本紙の人気設備ランキングで6年連続トップを独走している。新型コロナウイルスの感染拡大による生活仕様の変化で、需要はさらに増加。テレワークやオンライン授業だけでなく、映画や動画、SNSやゲームなどの娯楽コンテンツ、食事のデリバリーなどの生活支援サービスもインターネットを通じて利用するからだ。
「最近は無料インターネットが備わっている賃貸住宅の入居者が、個人でJ:COMのインターネット回線を契約し、Wi-Fi端末を設置するケースが増えている」と語るのは、賃貸仲介・管理を行うマイト(東京都北区)の新方宏明社長だ。同社は不動産事業に加えて、賃貸住宅におけるWi-Fi機器の取り付けや修理工事を行っている。
インターネット無料設備は、建物まで引き込んだ1本のインターネット回線を複数の入居者でシェアする場合が多い。複数の入居者が同時にインターネットを利用すると、速度が遅くなってしまうことがある。在宅勤務やオンライン授業で、動画をダウンロードしたり、テレビ会議システムを利用したりすると、通信量が増え遅くなりがちだ。
マイトはWi-Fi機器の修理に関しても、例年であれば、1日一人当たり8件だった工事が11~12件に増加したという。新方社長は「2020年4月の緊急事態宣言以降、毎月の修理工事件数が前年を上回っている」と語る。
湘南エリアで約8000戸を管理する湘南らいふ管理(神奈川県藤沢市)でも需要の変化を感じ取っている。無料インターネット設備は、空室対策になるスタンダードな設備の一つとして、以前から管理物件への導入を推進。すでに導入済みの物件も多いが、4月以降、入居者から個別に回線速度を上げたいという問い合わせを受けるようになった。入居者のニーズは確実に増しているという。
家主への新規導入の提案では、無料インターネットが空室対策により有効になると、家主の共感を得やすくなった。同社は「インターネット回線を引くための建物調査の件数が増えた。感染拡大前は月に1件あるかないかだったのがここ数カ月は3、4件。10月も4件の実施だった」と語る。無料インターネットがリーシングに有効な設備として、再認識されていることが分かる。
東京都内の仲介会社では、入居希望者から、無料インターネットの速度を聞かれることが増えた。内見時にアプリで通信速度を測る入居希望者もいるという。
必須設備の一つとして導入
大阪、兵庫などで賃貸経営を手掛ける図越寛オーナー(大阪市)は、ハイグレード都市型レジデンスをコンセプトに独自ブランド『ブエナビスタ』を展開している。以前から無料インターネットは必須設備の一つと考えており、現在建築中も含め13棟の所有マンションでイーブロードコミュニケーションズ(大阪市)と契約し、入居者が無料で利用できるインターネット環境を整えている。
数年前には、一部の物件で、回線速度が向上するIPv6に対応できるようにする提案を同社から受け、実施した。建物の状況によって、回線速度を向上させるための対策が異なることから、同社にはさまざまな提案プランがある。「そのおかげか、コロナ禍でもインターネットの回線速度に関する入居者からの不満の声やクレームはなかった」と図越オーナーは語る。
今年6月に新築した賃貸マンションでは、入居者がWi-Fiを利用する際のIDとパスワードを、物件名などを入れた文字列に設定。これまで機械的に振り分けられたランダムな文字列だったが、入居者の利便性からも変更した。
図越オーナーは「快適な住環境を整備するための細かい配慮が必要だ」とこだわりを語る。
図越寛オーナー
(12月7日8面に掲載)
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