新型コロナウイルス下でのリモートワークの普及を受けて、デベロッパーが賃貸マンションの在宅勤務仕様を進めている。2021年に竣工した物件では、在宅勤務に対応した設置を導入するケースが多いが、今後は単身者向けで専有面積を広げ、1Kから1DKなどに間取りを変更して販売するなどの動きも出ている。都心の賃貸需要は9月になって回復傾向も見られるが、在宅勤務に対応した仕様は今後も拡大していきそうだ。
在宅勤務に対応した設備を設置
三菱地所レジデンス、コーワーキングスペース設置
04年から賃貸マンション「ザ・パークハビオ」シリーズを展開する三菱地所レジデンス(東京都千代田区)は、これまでに96棟8000戸を供給している。
開発エリアは主に23区内で、中央区、港区、渋谷区、新宿区、品川区、目黒区、台東区の物件が多い。駅から10分圏内の立地で、ワンルームや1LDKの間取りが中心となっている。
1棟当たりの平均戸数は、70~80戸。販売先は、三菱地所グループのREIT(リート:不動産投資信託)に約半数、それ以外は事業法人などに販売している。また、売却後の物件の管理も原則、グループの管理会社の三菱地所ハウスネット(東京都新宿区)と三菱地所リアルエステートサービス(東京都千代田区)で行っている。
森山健一執行役員は「新型コロナの影響による入居者のライフスタイルの変化で、都心の賃貸マンションでもより広さと部屋数を求めるニーズが高まっていると感じている」と語る。
20年の入居者の解約数はコロナ下でも例年と変わらなかったが、リーシングを開始した物件に関しては、想定通りに入居が決まっていない物件もある。同年秋ごろから入居率全体に陰りが出ているが、広めの物件の入居率は好調な傾向が見えている。
21年3月に竣工した京王新線「初台」駅から徒歩9分に立地する「ザ・パークハビオ代々木初台」では、全78戸のうち、専有面積約33㎡の1LDKを38戸導入した。当初の計画を上回るペースで入居が決まっており、近く100%に到達する見通しだ。また、同月から募集を開始した「ザ・パークハビオ飯田橋プレイス」は約3割を約40㎡の1LDKにし、すぐ1LDKの入居はすぐに決まった。
新たに30棟3000戸のザ・パークハビオシリーズの開発を進めているが、在宅勤務に対応するため、共有部に本格的なコーワーキングスペースを導入した「The Parkhabio SOHO(ザ・パークハビオ・ソーホー)大手町」が22年6月に完成する予定だ。
「コロナ後も在宅勤務の流れは変わらないと考えている。分譲マンションの販売価格の上昇で購入から賃貸を希望する需要が出てくるのではないか」(森山執行役員)として、賃貸住宅開発を進めていく。
オリックス不動産、7月末から入居率が改善
1996年から賃貸マンション「ベルファース」シリーズを供給するオリックス不動産(東京都港区)は、188棟の竣工実績を持つ。23区が開発対象で、駅から徒歩10分圏内。平均販売価格は20億円で、販売先は資産家や一般事業会社が中心。
保有する賃貸マンションの直近の入居率は95%だ。コロナ下におけるリーシングの状況について投資開発事業本部の齊藤裕樹レジデンシャル事業部長は「新型コロナの感染拡大前が高水準だったこともあり、現状は計画値を下回っているが、9 月入居に向けて7月末から需要は回復傾向にある」と語る。
リモートワークへの対応として、2021年3月に竣工した「ベルファース岩本町」では、1戸でリビングの壁面に折り畳みテーブルを設置。非対面で宅配物を受け取りできるように、玄関扉の横に壁フックを導入した。また、共有部に衛生対策として、オゾン発生装置を導入した。ゴミ置き場のドアのレバーハンドルに腕や肘で操作可能なアタッチメントを設置する。
同社は今後22棟・約1300戸の賃貸マンションの開発を計画しているが、リモートワークに対応したワークスペースの設置や収納設備の見直し、設計事務所の取引先を拡大することなど、土地柄やターゲットに合わせた特徴を出し、バリエーションのある企画を検討していく。
日鉄興和不動産、1DKに間取りをシフト
日鉄興和不動産(東京都港区)では、事業ポートフォリオを多角化するために、15年5月に「リビオメゾン西新宿」を竣工したのを皮切りに、リビオメゾンシリーズの供給を開始した。累計の竣工実績は、16棟901戸で、一定期間保有後、売却する資産回転型の事業として賃貸マンションの開発に取り組む。
開発エリアは23区内で、駅から徒歩10分圏内の立地が中心。専有面積20㎡の1Kの単身者向け物件が約7割で、DINKSなど向けに40㎡の1LDKなどを供給している。施行中を含め、今後28棟・2036戸を供給する計画。
開発推進部の松本善秋開発推進第三グループリーダーは「新型コロナウイルスの影響で学生や外国人の賃貸需要は大幅に減少しており、法人の賃貸需要もまだ回復していない。ワンルーム、1K物件はエリアによって需給バランスが崩れている」と指摘する。
現在同社が保有している賃貸マンションは6棟401戸で、うち4棟は21年春に竣工したばかりの物件のため、入居率はまだ低い。継続保有している物件の一つは、入居率が85%程度まで低下している。
ファミリー向けの2LDKには底堅い賃貸需要があるため、新規に開発する賃貸マンションに関しては、ワンルームや1Kから1DKに変更し、2LDKも増やす。10月に竣工する物件では、収納スペースの棚板をデスクとして利用できる設備を備えた部屋を1タイプ採用する。インターネット無料を標準装備し、在宅勤務の環境を整備する。
また、今後の賃貸マンションの商品開発に活かすためにこれまで外部に委託していたPM(プロパティマネジメント)業務の内製化を開始した。
コスモスイニシア、コロナの影響受けず
コスモスイニシア(東京都港区)は、04年から投資用不動産として賃貸マンションの開発を開始。1棟当たりの平均戸数は30~40戸で、事業体制が変更するリーマン・ショック前までに、18棟890戸を竣工した。
分譲マンション事業のノウハウを活用し、ソリューション事業の一環として15年から賃貸マンションの開発を再開し、これまでに10棟約40戸を竣工した。
入居者のターゲットは、単身者やDINKS、小さな子どものいるファミリーで、間取りの7割弱が専有面積25㎡の1Kとなっている。23区を開発対象としているが、台東区や墨田区などが多い。
賃料水準は11万~12万円前後。売却先の9割がREITなどの機関投資家向けで、賃貸マンションの販売価格は9億~28億円。
賃貸マンションの販売市場が堅調に推移しており、投資用不動産推進部の吉村昌浩一課課長は、「完成時期が決まった段階で、購入のオファーがある。販売開始後すぐに成約する状況のため、開発した賃貸マンションが、新型コロナの影響で入居率に影響を受けたとは考えていない」と語る。
開発を決定した賃貸マンションは8棟約370戸。リモートワークの増加に対応し、可動式の間仕切りを設置し、専有面積25㎡ほどの1Kから40㎡ほどの1DKの間取りの物件を増やしている。
中長期的な目標として、オフィスやサービス店舗、既存の建物などを含めて、会社全体の事業規模を現在の2~3倍に増加することを目指す。今後について「新築の賃貸マンションのニーズは今後も継続するため、既存の物件と差別化した商品を供給すれば、今後も堅調な需要が期待できるとみている」(吉村課長)と語る。
新型コロナによるライフスタイルの変化で都心の単身者向け賃貸マンションでも、これまでより広めの物件の供給が拡大していきそうだ。
(9月27日4面に掲載)