賃貸経営においては、不動産会社に仲介・管理を委託するだけでなく、オーナーが自ら積極的に行う方法もある。とはいえ、入居者募集や物件の収支管理などは業務負担が大きいことも事実だ。本特集では、オーナーを対象にした賃貸経営に役立つサービスを紹介する。
閲覧数や反響内容を把握
物件の掲載代行 高齢者入居を推進
仲介支援システムの構築を手がけるSIRE(サイアー:東京都目黒区)は、オーナー向け物件掲載サービス「ECHOES(エコーズ)」を2020年月12より展開している。大手不動産ポータルサイト「SUUMO(スーモ)」「athome(アットホーム)」「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」を中心に、オーナー自らが物件をサイトに掲載し、反響を確認することができるサービスだ。
オーナーに代わり宅地建物取引事業者であるSIREが掲載代行を行う仕組み。オーナーは管理画面で、日ごとのサイト閲覧数の確認や掲載情報の修正が可能だ。客付けは「ECHOESエージェント」として提携する仲介会社が行う。SIREは内見後の入居者の反応をヒアリングしてオーナーに共有。オーナーは、フィードバックを基に物件募集に関する戦略を練ることができる。30日間の掲載費用は3300円(税込み)だ。
23年7月12日には、65歳以上の部屋探し専門のポータルサイトを運営するR65(東京都杉並区)と業務提携した。R65が運営する高齢者向けポータルサイト「R65」に、ECHOESを通して物件を掲載できるようになった。
ECHOESに登録する物件724件(8月3日時点)のうち、5割が高齢者の受け入れが可能な物件だ。高齢者の入居受け入れが進みづらい昨今では比較的多い割合となる。SIREの木津雄二社長は「ECHOESを利用するオーナーの多くは空室対策や入居者募集のため、リフォームや見守りサービスの導入にも積極的だ。ECHOESで掲載可能なポータルサイトも4つに増やすことができた。今後もオーナーの賃貸経営をサポートしていきたい」と話す。
入居者へ直接提案 アプリも開発予定
不動産業界向けシステムを開発するマテバ(東京都渋谷区)は、オーナーと入居希望者をマッチングするウェブサイト「マテバ」を22年11月より運営している。
オーナーが入居希望者に直接、登録物件をチャットで薦めることができるサービスだ。電子契約を用いた賃貸借契約を行うことも可能。料金は1件の成約につき3万8500円(税込み)だ。23年11月31日までは完全無料で掲載できる。
9月ごろをめどにスマートフォンアプリを開発する予定だ。1戸ごとにチャットグループをつくることができ、オーナーと入居者のほか、管理会社や施工会社も含めたやりとりが可能になる。これにより、入居者からの問い合わせへの対応から退去手続きまでチャットで完結できるようになる。なお、写真やファイルを送信することも可能。
アプリ化の重要な目的は、通知による利用の活性化だ。これまでのブラウザーでの運営では、登録物件への反響の通知は登録したメールアドレスにのみ送られていたため、通知に気付きにくい点が課題となっていた。アプリでは、反響など最新の動きがわかりやすくなる。また迅速な対応が可能になり、成約率の向上にもつながる。マテバの筒井太一朗社長は「オーナーも入居希望者もシステムを活用しやすいよう改良した。今後もより質の高いマッチングサービスとして開発を進めていく」と語る。
収支管理システム 購入・売却まで支援
不動産オーナー向けのクラウドサービスを提供するヤモリ(東京都港区)は、賃貸住宅のクラウド型収支管理システム「大家のヤモリ」を提供している。
ウェブサイト上でアカウントを登録することで利用できる。所有物件に関するデータを入力すると、自動で物件ごとのキャッシュフローや空室率、滞納状況などを表示した月次レポートを作成する。そのほか、各種契約書、管理会社から送付される月次管理明細、修繕報告書などのクラウド上での一括管理、複数の管理会社からの連絡・報告を一覧できる「メッセージセンター」など、事務作業を効率化する機能も備える。
所有物件の収支管理にとどまらず、購入を検討する物件の30年間の損益やキャッシュフローのシミュレーション機能、融資関連資料の作成機能なども搭載。投資用物件の購入から管理、将来的な売却などの出口戦略まで、不動産投資による資産運用を総合的に支援するツールだ。
20年3月にベータ版をリリース。23年7月末時点で約4000人分のアカウントを発行済みで、システム上で管理される不動産の資産規模は約1000億円となっている。
主要機能の利用は無料。有料の会員制サービス「ヤモリの家庭教師」に入会すると、約40行の金融機関の支店担当者とのマッチング、限定物件情報が掲載されるポータルサイトが利用可能になるなどの特典がある。ヤモリの家庭教師の入会金は12万円、月額利用料は5390円(いずれも税込み)だ。
共用部の巡回清掃 1回3300円から提供
空室対策のコンサルティングや清掃サービスを展開するカイロス住宅サービス(東京都大田区)は、東京23区を中心に賃貸住宅の巡回清掃サービスを行っている。
大田区や目黒区を中心とした地域であれば、単身者向け8戸以下の物件の場合、1回あたり3300円(税込み)で月4回の清掃を行う。基本的な清掃内容は共用部の掃き掃除や拭き掃除だ。ごみ捨て場・集合ポスト・共用灯の清掃や駐輪場の整理など、内覧の際に入居希望者が注視する場所の清掃や点検も併せて行う。清掃後は写真付きの作業報告書をオーナーにメールで送る。放置自転車があった際は、オーナーに報告し、必要に応じて張り紙をはじめとした注意喚起から撤去まで対応が可能だ。
物件の規模や毎月の清掃回数に応じて料金プランを設定している。単身者向け物件のプランでは14戸までは1回あたり3700円、ファミリー向け物件では9戸まで1回あたり3800円(いずれも税込み)で受託。6月末時点で約90棟の物件で利用されている。
鳴嶋壽史社長は「空室対策のコンサルティングとして、共用部の清掃の重要性を訴求していきたい。今後は従業員を増やし、サービスの提供エリアを拡大していく」
Noblue、家具を配置し写真・動画撮影 最短で翌日に納品
インテリアコーディネート事業を行うNoblue(ノーブルー:東京都目黒区)は、空室に家具や生活雑貨を配置し、写真や動画を撮影してデータを納品するサービス「賃貸空室対策用インテリアパック」を2010年より展開している。
住所や間取りなどの物件情報と併せて入居者ターゲットをヒアリングし、家具や生活雑貨を選定する。最短で翌日には明るさなどを調整した写真40~60枚と2分ほどの動画データを納品。室内だけでなく、外観や共用部の画像も提供する。撮影した動画は同社のユーチューブチャンネルに掲載され、オーナー自身のSNSなどでの2次利用が可能だ。
空室対策として以外にも、新築時の入居促進や売買用の資料として利用されることが多い。
料金は1件あたり16万5000円(税込み)から。物件の立地や撮影内容によって料金が変わる。ホームページ作成などのオプションも用意している。
清水信宏社長は「部屋を豪勢に見せるのではなく、一般的な家具や生活雑貨を中心に設置することで住むイメージが湧きやすいように工夫している」と語る。
(2023年8月14日8面に掲載)