東京都は、4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下、カスハラ条例)を施行する。不動産の業界団体はガイドラインの作成に乗り出した。管理会社も対応を求められている。
日管協、ガイドライン策定へ
マニュアルを公表
都のカスハラ条例ではカスハラの一律禁止を明記。顧客には言動に注意を払うよう求め、事業者に対して就業者の安全確保や顧客への適切な措置を講じる努力義務を規定した。
条例ではカスハラを「顧客などから就業者に対する」「著しい迷惑行為」であり「就業環境を害するもの」と定義した。3月4日に公表された「各団体共通マニュアル」では、カスハラに当たり得る行為として、暴力行為、暴言・侮辱・誹謗(ひぼう)中傷、威嚇・脅迫、人格否定・差別的発言、土下座の要求、長時間の拘束などを挙げた。
同条例に基づくガイドラインでは、事業者に対し、カスハラ対策の方針を社内外に周知することや、従業員向けの相談窓口を設置することなどを努力義務として求めている。
理念型、罰則なし
都のカスハラ条例はいわゆる「理念型」で、罰則の規定はない。その理由について東京都産業労働局雇用就業部労働施策担当の須之内理史課長は「罰則を設ける場合、刑罰の対象となる行為を厳格に定める必要がある。その結果、禁止されない行為は何をしてもいい、という理解が広がってしまう懸念がある。今回は防止の啓発に重点を置いた条例とした」と話す。
同条例の意義の一つは、法令上の枠組みでカスハラを定義したことにあるという。カスハラについては、厚生労働省が2022年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」で対策などをまとめていた。ただ、マニュアルは法令ではないため周知力や効力が低いとして、改めてカスハラ防止について法令上で示すことが望ましいという意見が都に寄せられていた。有識者を交えた議論を経て条例制定に至った。
「3年内に被害」6割
カスハラへの対応指針を業界共通で示そうと、業界団体も動き始めた。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(以下、日管協:東京都千代田区)は、賃貸住宅管理業界版「カスタマーハラスメント対策ガイドライン」を、6月をめどに、会員に向けて公表する予定だ。賃貸住宅管理業界におけるカスタマーハラスメントの発生状況、事例や場面別の対応方法などを掲載する。あわせて、啓発ポスターを作成するほか、日管協標準版契約書へカスハラに関する条文を追加して公開できるよう準備を進めている。
同ガイドラインを作成するにあたって、カスハラの現状を把握するためにアンケート調査を実施。会員企業2600社を対象に、24年12月24日から25年1月29日に実施し、580件の回答を得た。
直近3年間でカスハラを受けたとの回答は62%を占めた。回数については、「1~5回」が35%、「6~10回」が14%、「11~15回」が3%、「16回以上」が10%だった(グラフ参照)。
アンケートでは深夜や早朝の時間外に対応を強要されたり、不当な言動が行われたりする事例が報告された。具体的には「入居者から設備故障について、今すぐにやれ、と電話で怒鳴り散らされた」「入居者から従業員に対し解雇や土下座を要求された」「賃貸住宅オーナーから入居者が決まらない場合、自宅に呼びつけられ長時間正座を要求された」という事例が挙げられた。
日管協の塩見紀昭会長はガイドラインの作成を始めた経緯について「カスハラ被害の拡大が、賃貸住宅管理業界への人材流入を阻害するのではないかという危機感を抱いた」と話す。
「クレームやカスハラの要因となるトラブルを、管理会社ができる限り起こさないことが前提。顧客からの要望をサービスの改善に生かしていくことも重要。そのうえで、いかなる場合もカスハラは許してはならない」(塩見会長)。6月にガイドラインを公表することで、賃貸管理業界におけるカスハラ問題に一石を投じたい。今後も状況の把握に努めながら、カスハラ対策を一層強化していく方針だ。
「業界で共同宣言を」
賃貸管理業界が取り組むべきカスハラ対策とは何か。カスハラ問題に詳しい、東洋大学社会学部の桐生正幸教授は二つのポイントを挙げる。
一つ目は、業界でよく起こるカスハラ行為をタイプ別に分けて分析すること。カスハラの特徴は業界によってさまざまだ。特徴を分析するため、「態度・言動」「要求内容」という二つの変数を縦軸と横軸に設定し、カスハラ事例をプロファイリングする。例えば、要求内容は適切だが態度・言動が不適切なパターンや、その逆のパターン、両方とも不適切な場合もある。こうした分析を行うことで、業界ごとのカスハラの特徴や傾向が明らかになるという。
二つ目は、業界団体が方針を明確化して公表することだ。カスハラの分析結果を基に業界団体がマニュアルを作成すれば、各事業者もマニュアル作成に取り組みやすくなる。賃貸管理業と同じBtoBtoC(企業間取引の先に消費者をつなぐ)のビジネスモデルの業界が作成するマニュアルを参考にするのも有効だという。「携帯電話の販売代理店の協会のように、業界としてカスハラへの対応方針の共同宣言を出したケースもある。業界全体の方針とすることで、個社ごとの取り組みよりも、横断的なカスハラの抑止につながる効果があると考えられる」(桐生教授)
(河内・大塚)
(2025年3月24日1面に掲載)




