覚醒剤や大麻といった不正薬物の受け取りに空室が悪用されている。賃貸住宅が犯罪の温床とならないよう、オーナーや管理会社は、巡回などの際に不審なサインを見逃さないことが重要になる。
巡回頻度低い物件が標的
コロナ下で急増する貨物や郵便での密輸
2月に大阪府の高校で、生徒から没収した大麻を教師らが隠したとして、大麻取締法違反の容疑などにより書類送検された報道を目にした読者は多いだろう。オーナーや管理会社の中には、自分に関係のない話だと考えている人もいるかもしれないが、その認識は一度改めたほうがよさそうだ。
実は、海外から送られてくる不正薬物の受取先として賃貸住宅の空室が悪用されている。
新型コロナウイルス下で入国制限が行われたことにより、海外からの入国者が持ち込む案件が減り、代わりに急増しているのが航空貨物や国際郵便物で送るケースだ。財務省が2月16日に発表した「令和3年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況」によると、航空貨物からの摘発件数は2020年比2.5倍の50件で押収量も約2倍。国際郵便物では、同43%増の33件で、押収量は約3.7倍だった。
不正薬物全体の摘発件数は同12%増加の833件だった。
東京税関では、取り締まりを強化するため、賃貸管理会社に空室悪用の手口について、情報の発信や提供を求めている。
それでは、どのような手口で不正薬物が空室で受け取られているのか。その一つが、空室の郵便受けを使うケースだ。まず、郵便物などが入れられないようにしている郵便受けの投函(とうかん)口のガムテープを剥がして、偽名の表札を貼っておく。郵便局や運送事業者が不在連絡票を入れた後に抜き取り、転送先を指定したり、住人のような顔をして取りに行ったりする。他にも「置き配」を指示して、運送事業者が荷物を置いた後に、回収するケースや空室に不法侵入し、入居者として受け取ることも一部ではあるようだ。
東京税関調査部の岡田浩一情報管理室長は「狙われやすいのは巡回の頻度が少ない物件」と話す。
郵便受けの表示やうろつく人物に注意
こういった不正薬物の受け取りが行われていることを示すサインはいくつかある。まず、空室の郵便受けに使用の形跡がある、社名などの表札が貼ってある場合だ。
また、空室なのに頻繁に荷物が届く場合は要注意だ。不正薬物の密輸では「ショットガン方式」といって、同時期に集中して似た内容で不正薬物を送るケースがあり、同じ空室に繰り返し運送事業者が来ることがある。加えて、不審者が物件の周辺をうろついていたりするときも気を付けたい。「受け子」といわれる不正薬物の受け取り担当の可能性があるからだ。
岡田情報管理室長は「管理会社やオーナーは、巡回や清掃などの際に、いつもと違うことが起きていると感じたら、確信がなくても税関の『密輸ダイヤル』や『密輸情報提供サイト』に連絡をしてもらいたい」と訴えた。
定期的な巡回などを行い、賃貸住宅の悪用を防ぐことがオーナーや管理会社に求められている。(河内)
(2022年3月28日24面に掲載)