アットホーム(東京都大田区)がDX(デジタルトランスフォーメーション)による不動産業務の改善支援や経営課題解決の事例をレポートする本連載。第4回は、小田急不動産(東京都渋谷区)賃貸営業部の山口武尊氏に話を聞きました。
小田急不動産がDXで解決を目指す課題
・安定した収益源の確保
・人為的ミスが生じやすい業務フローの改善
電子申し込みに対応 契約手続きを効率化
小田急グループにおける土地・建物の分譲や賃貸管理などの事業を展開する小田急不動産は、収益基盤の安定化を目指して保有賃貸不動産の拡大、事業の多様化に力を入れています。
「小田急不動産は賃貸管理業務における改善施策の一環として、2020年よりDXに着手しました。DXで解決を目指す課題の一つに、煩雑な業務フローを原因とした人為的ミスの発生防止が挙げられます。データベースが一元化されていなかったときは業務プロセスが非効率で、さらに業務の属人化が発生していました。そのため、担当外の物件情報を取り扱うと、人為的ミスが生じやすい状況になっていたのです。そこで、業務フローの可視化やデータベースの一元化を目的としたDXツールの導入を始めました」(山口氏)
その一つが、オンライン入居申し込みツールです。
「ツールの導入によって、煩雑な賃貸借契約の手続きの効率化や、申込者情報のデータ化を目指しました。導入当初は従来のフローに比べて一時的に業務負荷が増えてしまい、そのことについて現場の店舗から反発がありました。そこで、ツールを導入する意義や操作手順を現場スタッフに細かく説明するなどのフォローを行ったのです。そのかいあって徐々に理解を得られ、着実にミスを解消できています」(山口氏)
DXツールを率先導入 取引先への波及狙う
DXによって業務が効率化される一方で、情報の正確性に対する課題が生じています。
「新規取得物件の査定や新築物件の賃料設定に、AI技術による査定ツールを導入しています。ただし、賃料の査定はデータ化できない要素も少なくありません。そのため、AIが参照しているデータを正確に把握すること、AIの査定額は判断材料の一つとすることが必要です。査定額は物件の資産価値を左右する重要な指標なので、金額の根拠が欠かせません。将来、DXツールが正確性を担保できるようになれば理想的ですね」(山口氏)
今後はさらにDXを推進し、社内の業務改善に加えて取引先や顧客に対するサービス品質の向上を目指します。
「仲介会社や申込者など関係者もDX化を進める動きが生まれることを狙っています。そのためには、まず管理会社である小田急不動産がDXを率先して進めていく必要があると考えています。その一環として、紙と電子の両方があった入居申し込みの受付窓口を電子に一本化しました」(山口氏)
小田急不動産のDXは社内の業務フロー改善にとどまらず、関連会社や取引先への波及も見据えています。その影響が業界全体に広がり、エンドユーザーへのサービス品質向上につながることに期待します。
アットホーム
不動産DX企画部部長 直井孝平
2013年から不動産情報プラットフォーム「ATBB(アットビービー)」を開発。賃貸管理システム事業化プロジェクトマネージャーを務める。21年より現職。DXによる不動産会社の業務支援、業界全体のDX推進に尽力している。
(2022年8月22日9面に掲載)