収益不動産の建築を行っていたユービーエム(東京都江戸川区)が経営破綻した。現場が止まり、発注元の不動産会社からは困惑の声も上がる。着工中の案件については、個別の交渉が必要になり、発注者である投資家や不動産会社は対応に苦慮しそうだ。
現場動かせず「やられた」
「やられた」
ユービーエムに建築を発注していた不動産会社は唇をかんだ。東京都大田区で建築中だった全8戸の賃貸住宅は、2023年3月に完工予定で、あとは室内の設備を施工すれば引き渡しという状況だった。
2月8日朝には、建築現場にユービーエムからの「告示書」が貼られた(写真1)という。ユービーエムが、破産手続き開始の申し立てを行ったこと、一切の動産類はユービーエムの代理人弁護士が専有管理しており、許可なく建物内に立ち入ることや建物内の動産を搬出するなどの行為は禁じられていることなどを記載していた。
この不動産会社側では、現在顧問弁護士に相談し、工事の未払い金と同社が支払った検査代金などの相殺ができるよう交渉していく予定だ。
「受注、ほぼ原価」
ユービーエムは、6日に東京地裁に破産手続き開始の申し立てを行い、8日に手続き開始が決定した。破産管財人はときわ法律事務所(東京都千代田区)の濱田芳貴弁護士。
東京商工リサーチ(東京都千代田区)の調査によるとユービーエムの売上高は、15年4月期の6億3545万円から、19年4月期は38億8215万円、21年4月期は103億7428万円と大幅に増加。
投資用不動産を主体としたRC造建設事業を開始後、業容が急拡大したとする。負債総額は33億5897万円(22年4月期決算時点)に上るという。
破産手続き開始が決定した8日にユービーエムのオフィスに足を運ぶと、扉にはブラインドが下っており、人の気配はなかった。
その場に来ていた、ユービーエムに住宅設備を卸していたという会社の担当者は「1月31日の入金が遅れ、その後も連絡が取れなくなっていた。破産していたとは」と話した。22年ごろに取引を始めており、納入した給湯器の料金が未納になっているという。
「もともと薄利だった印象。ほぼ原価の無理な受注をしていた」と話すのは、ユービーエムと取引があった不動産会社だ。ユービーエムが顧客に出した見積書の金額・坪単価を見た時の印象だったと話す。経営破綻時の取引はなかったため、業務での影響を受けなかった。
工事の状況を把握
不動産問題に詳しいKOWA(コーワ)法律事務所(東京都中央区)の池田聡弁護士は「建築途中に建築会社が破綻した場合、交渉など非常に面倒になることが多い」と話す。
工事の進捗(しんちょく)状況と、契約関係により、ユービーエムに発注していた投資家・不動産会社の対処策が分かれる。
着工前、着工中、完工後の三つの工事の進捗状況と、後述の関係者間の契約パターンで照らしていこう。
①投資家・不動産会社が直接ユービーエムに建築を発注しており、現場の施工もユービーエムが行っている場合
②投資家・不動産会社がユービーエムに建築を発注したが、ユービーエムがさらに下請けの施工会社に工事を発注していた場合
着工前と完工後に関しては、契約関係で対処方法は大きく変わらない。
着工前の場合、投資家・不動産会社が支払った着手金はユービーエムの破産債権となっているため、「状況にもよるが、戻ってきても数%程度になるのではないか」(池田弁護士)という。発注者への入金分の返金はほぼなく、別の建築会社に一から工事を発注することになる。
完工後の場合、ユービーエムに契約どおりの金額をすべて支払い、物件の引き渡しをなるべく早く対応してもらうよう、破産管財人に働きかけるのが良いという。
交渉が必要になり、場合によっては訴訟問題にまで発展し得るのが、着工中の場合だ。
①の場合には、争点となるのが、工事の進捗状況だ。投資家・不動産会社は、破産管財人と話し合い、工事が何%まで完了しているかで合意する。発注側が、工事の完成状況に応じた金額から入金した額の差額を支払い、現場の引き渡しを受ける。例えば、工事の完成度が60%で合意し、総額に対して30%が支払い済みであった場合、投資家・不動産会社が30%を追加で支払えば良い。
「工事の進み具合について、双方で意見が分かれることがあり、合意に至らないと訴訟で解決することになる」(池田弁護士)
投資家・不動産会社側は、止まった工事現場の詳細な写真を撮影しておくことが大切だという。写真を見積もりの細目と照らし合わせるように撮っておくことで合意に至りやすくなり、裁判になっても証拠として提出できる。
さらに対処が難しくなるのが、②の場合だ。実際に現場で施工している下請けの会社が、改正民法第634条に定めた「出来高清算に伴う契約解除」に基づいて、契約の解除となるまでは、施工現場の留置権を主張し、専有を続ける可能性がある。
留置権は民法と商法に定義があり、民法上における民事留置権とは「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない」(民法第295条第一項本文)とする。民事留置権は破産会社に対しては効力を失うが、契約関係がない相手にも主張できる。商事留置権は破産会社に対しても主張できる。
つまり、ユービーエムではなく、下請けの会社との交渉が必要になる可能性が高い。例えば建築の完成度が60%で、発注者がユービーエムに総額の30%を入金済みでも、ユービーエムから下請け会社への支払いがゼロの場合、発注者側と下請け会社の間での債権・債務の認識が異なってくる。
訴訟になれば、発注者が支払っている限り、発注者が勝つ可能性が高いものの、投資家としては訴訟により引き渡しが遅れることは困るため、下請会社が足元を見てくる可能性がある。
つまり発注者は30%を支払い済みと考えるが、下請け会社はユービーエムから支払いがないため総額の60%の支払いを求めることになる。それぞれの主張に対し、どこに妥協点を見いだし、合意に至るかが求められる。
着工中の場合には、①、②のいずれにせよ、交渉相手と合意したとしても、当初の契約期間よりも大幅に遅れた状態で、なおかつ未完工の状態での引き渡しとなる。そのため、融資先の金融機関へ、返済開始の再調整、場合によっては追加融資などの相談も必要となる。
(河内、柴田、齋藤)
(2023年2月20日1面に掲載)