管理会社がオーナーとコミュニケーションを取る上で、強みとするツールや場は各企業によって異なる。また、それによって得られる効果も違う。例えば、相続セミナーを行うことで事業承継後も引き続き受託を受けるなどの事例も見られた。どんな成果を目的とし、何を活用しているのか、不動産管理を行う6社の企業を取材した。
北都開発、年2、3回の訪問実施
花見イベントなど対面を重視
管理戸数3159戸の北都開発(宮城県大崎市)は、アパートの建て売りからの管理受託を主流としている。そのため、既築物件の管理受託よりも早い段階からオーナーと接点を持つことができ、付き合いが長くなる点が強みだ。加えて、年に2~3回の定期訪問からオーナーを招いた花見などのイベント主催まで、対面のコミュニケーションに重きを置くことで信頼度を獲得。管理を受託する約250人のオーナーのうち、9割からリピートで管理を受託している。
全従業員10人のうち、管理業務にあたる従業員は7人。管理を受託するオーナーの属性は、投資家系と地主系が半分ずつを占める。
定期訪問では、空室対策に関わる賃貸住宅の設備トレンドなどの情報交換を行う。ポイントは、家賃減額など、オーナーに負担を強いるだけの提案はなるべくしないこと。具体的には、アクセントクロスの導入のように、低コストで行えるリフォーム・リノベーションの事例紹介などだ。
渡辺俊社長は「オーナーと共同経営者のつもりで投資利回り重視の提案を心掛けている」と話す。同社では、仕事を通じて興味を持ち実際にオーナーとして物件を所有している社員が3人在籍しており、オーナーと同じ目線で意見交換できる点も強みだ。
コロナ禍で現在は自粛しているが、花見などを含む飲み会の場には、建設会社などの関係業者の参加も促し横のつながりをつくる。オーナーが気軽に相談しやすい関係性構築を目指している。
管理物件のエリアは、宮城県内の仙台市を含む県北エリアと県南エリアを中心に、隣接する岩手県や山形県にも及ぶ。今後は、一部進出している岩手県や山形県の新規オーナー開拓の推進を目標に掲げる。
北都開発
宮城県大崎市
渡辺俊社長(38)
エコホームズ、LINEでオーナー対応効率化
報告業務が20~25分短縮
管理戸数1892戸のエコホームズ(大阪市)では、オーナーとのコミュニケーションにLINEを活用することで業務効率化を実現している。オーナー対応を行うのは管理部の3人。管理を受託するオーナーは約200人で、投資家系が8割と最も多くを占める。
同社では2011年から清掃報告や見回りの結果報告といった、オーナー対応に使用するツールをメールからLINEに切り替えた。その結果、報告にかかる時間が30分から5~10分程度にまで短縮できたという。使っているLINEの機能は、チャットや電話のほか、ノート、アルバムなど。
例えば、チャットはオーナー1人と社員3人のトークルームをオーナーごとに作り、空室のあるオーナーへは週1回で物件の募集状況の報告を行っている。また、他にも電話で話した内容を議事録としてノートにまとめ、オーナーが後から確認できるようにするなど、コミュニケーションをLINE上で概ね完結できるようにしているという。
また、内装業者や清掃業者など、協力業者も含めたLINEグループの作成もしている。そうすることで、グループのメンバーから直接内装後や清掃後の報告写真・動画がチャット上へアップされるという。
LINEを使い始めた理由は、オーナーも社員も使い慣れているため。「新しいコミュニケーションツールを採用しても、機能を使いこなすまでに時間を要する。双方が日常的に利用しているLINEをビジネスでも活用しようと思った」と大野勲社長は話す。
現在、収支報告はLINEではなく紙のやり取りになっている。今後は『ビジュアルリサーチ』というクラウドサービスを導入し、LINEのメッセージで送ったURLからオーナーが収支報告書を確認できるようにしていくという。
エコホームズ
大阪市
大野勲社長(45)
牛丸不動産、地主の相続相談に注力
代替わり全17件で受託継続
熊本市内で430戸を管理する創業57年の牛丸不動産(熊本市)は、相続による代替わりをサポートすることで、オーナーとの関係を構築し、管理替えを抑制。三船恵子社長の就任から9年が経過し、代替わりを行った全17件の管理物件で相続後も管理受託を継続することに成功している。
同社では、2020年の売上高(非開示)のうち、48%を売買仲介が占める。次が、賃貸管理で38%、賃貸仲介が14%と続く。社員全4人は女性で、賃貸管理や仲介などの全業務に携わる。管理を受託しているオーナーは107人で、年齢は30~90代。相続を終えてオーナーになった人や、相続に関する悩みを抱えている高齢者など、世代は幅広い。年間平均3人のオーナーが相続の相談で来店するという。
4年前には、認知症のオーナーと娘が来店。成年後見制度や、公証人役場で公正証書を作成する手順を細かく説明して相続対策の相談に応えた。その後、同オーナーが所有する物件の管理を任されたという。三船社長は、「私自身がセミナーを受講しながら知識を増やし、いつでも相談に乗れる準備をしている」と語る。
相談は店舗で行っている。原状回復工事やクレーム対応の結果などを報告する際に、三船社長自身が相続について学んでおり、店舗で相談に乗れることをオーナーに伝え、相続対策の相談がある際には来店するよう促している。「立ち話のような感覚で、何かの要件のついでに伝えるのがポイント」と三船社長は話す。
今後は、相談案件が増えている家族信託や確定申告についての相談にも対応できるように準備していく。
牛丸不動産
熊本市
三船恵子社長(52)
(5月17日9面に掲載)
関連記事▶【仲介・管理会社ノート 家主との関係構築術編[前編][後編]】
おすすめ記事▶『企業研究vol.067 エコホームズ 大野 勲 社長』