住宅情報提供会社が毎月発表している募集賃料に基づいて、多くのメディアが東京23区の賃貸住宅の賃料が物価上昇率を上回っていると報じています。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都への人口流入超過は新型コロナウイルス感染拡大(以下、コロナ禍)のため大きく減少しました。
この影響で、賃貸住宅の募集賃料は下落傾向となりました。人口流入超過は2022年初めから増加傾向となり、家族向け(50~70㎡)、カップル向け(30~50㎡)の募集賃料が上昇に転じ、物件の多い単身者向け(0~30㎡)の賃料は、翌23年初めごろから上昇に転じています。
図1はアットホーム(東京都大田区)による東京23区の賃貸マンションの募集賃料指数(「全国主要都市の『賃貸マンション・アパート募集家賃動向』」から作成)と日本情報クリエイト(東京都新宿区)による支払い賃料指数(「管理データ」に基づいた「CRIX(クリックス)」から作成)の推移を比較しています。
東京23区の賃貸マンションの募集賃料は、20年1月を基準として25年6月には、30㎡以下は12.64%(2.41%/年)、30~50㎡は26.60%(4.83%/年)、50~70㎡は29.88%(5.37%/年)と上昇しています。0~30㎡の募集賃料上昇率は物価上昇率(2.24%/年)と同程度、30~50㎡、50~70㎡の募集賃料上昇率は物価上昇率を大きく上回っています。
これに対して、東京23区の賃貸マンションの支払い賃料は、20年1月を基準として20年6月には、0~20㎡は5.86%(1.15%/年)、20~30㎡は7.71%(1.50%/年)、30~50㎡は5.57%(1.09%/年)、50㎡~は17.90%(3.35%)上昇しています。
かろうじて50㎡~の支払い賃料上昇率は物価上昇率を上回っていますが、そのほかの面積帯の支払い賃料上昇率は物価上昇率を下回っています。以上から、支払い賃料の上昇率の低さを補うために募集賃料の上昇率を高く設定している、という側面が垣間見えます。
賃貸マンションの空室率についても確認しましょう。図2はCRIXから作成した東京23区の賃貸マンションの空室率の推移を示しています。
コロナ禍の人口流入減少期にも、東京23区の賃貸住宅の供給量は変化しませんでしたので、供給量の多い単身者向け(0~20㎡、20~30㎡)は供給過剰となっています。特に、面積の狭い0~20㎡の空室率は高水準で推移しており、テナントから選好されにくくなっていることがわかります。
一方、20~30㎡は一貫して0~20㎡よりも低い水準で空室率が推移しています。
コロナ禍では、通勤時間を短縮しようという動きもありました。これを受け、供給数の少ないカップル向け(30~50㎡)、家族向け(50㎡~)は21年初めに空室率が天井を打ち、改善に向かいました。その後も低い水準で空室率が推移しています。特に50㎡~については空室率が低い水準で推移しており、需要過多となっていることがわかります。 これが、支払い賃料の上昇率が高くなった要因と考えられます。
新型コロナの5類移行後、東京23区の空室率は改善傾向で推移していましたが、直近では底打ちの兆しが観察できます。募集賃料の上昇で、東京23区居住を断念する動きが現れ始めている可能性があります。
不動産市場アナリスト
藤井 和之
清水建設、Realm Business Solution、日本レップ、タスを経て2022年より現職。マクロデータを用いた不動産市場分析に基づく執筆、セミナー活動を実施。
(2025年10月13日15面に掲載)




