5月に入り、日本列島各地で地震が発生した。最大震度4を超える規模が相次ぎ、住宅被害が起こったケースもある。仲介会社・管理会社は、地震などの災害が起こった時にはどのような対応が求められるだろうか。あるいは、被害を最小限に留めるため、何をするべきか。過去に起こった災害を事例に、実際に不動産会社が取った行動を紹介する。
※2020年9月11日公開【災害対応・経験者に学ぶ】全5回シリーズで掲載した記事のリライトです。
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大里綜合管理、〝円滑な初動〟の仕組み構築
2019年9月から10月にかけては「房総半島台風」(台風15号)、「東日本台風」(台風19号)が相次ぎ襲来。家屋や建物の損壊、浸水、インフラの断絶と甚大な被害をもたらした。
千葉県九十九里地域で建築、不動産業を手掛ける大里綜合管理(千葉県大網白里市)でも「屋根が飛んだ」「自転車置き場、カーポートがつぶれた」「水道や電気といったライフラインが不通」など、社内に開設した災害支援センターに延べ700人から被害相談が寄せられた。建築部門の担当者もこれまでにない要請数に「不眠不休」で対応したという。
昨年の災害で効果を発揮した対応の一つが、センター開設に必要な指示マニュアルと備品を入れたボックス『地震災害等FMB(ファーストミッションボックス)』だ。そのボックスには、社員が正しい順番で行動しやすい仕掛けを施している。
ボックスのフタには「災害の時はこの箱を開けるべし」というラベルが貼られ、フタを開けると5つのマニュアルが入った封筒が重ねて置かれ、指示を一つずつ順番にこなす仕様になっている。地震や台風などの災害発生時、責任者が不在であってもFMBのマニュアル通りに行動すれば、指示を待つことなく迅速に適切な対応を取ることができる。
FMBを最初に開けた人が仮の本部長としてヘルメットなどの在庫備品の準備を指示。壁の掲示物を取り外したり、床に置かれた物を片付けたりして本部に必要なスペースを作り、壁に模造紙を貼って被害連絡をマジックで書き込んでいく。
集まってきた社員の中から「受付班長」「情報班長」「救護班長」「生活班長」の4人を任命し、それぞれが〝ファーストミッション〟を行う。例えば救護班であれば、医療品の備蓄量を紙に書き留める。情報班はFMBに入っているラジオで、被害情報を収集し15分ごとに班長に報告する、といった具合だ。
FMBの活用により、昨年9~10月の台風被害では、行政や他企業よりいち早くセンターを開設し、地域住民のSOSに応えることができた。
一般社団法人危機管理教育研究所(東京都中央区)の国崎信江代表らが開発したFMBだが、同社では18年から社内の目立つ場所に、明るい赤色のボックスを置いている。
野老真理子会長は「災害を防ぐことはできない。しかし、災害が起きたときに取るべき行動を決めておくことで、当事者の不安を取り除き、いざというときに適切に対応できるようになる」と平時からの準備、心がけの大切さを語る。
同社は不動産業だけでなく地域活動や、レストランやコンサート、催事などを通じて、多くの地域住民とのつながりを持つ。「社員の安全が第一だが、その上で地域の守り手になる」という野老会長。「災害に強い街づくり大綱」として防災によるまちづくり活動を行ってきた。地元での活動はもちろん、11年3月の東日本大震災以降は、社員が被災地を訪れボランティア活動も継続している。「いろいろな活動を積み上げてきたことで、新しい情報や気づきも得られる」(同)。今後も地域とのつながりを守りながら、災害への備えを調えていく。
大里綜合管理
千葉県大網白里市
野老真理子会長(61)
「防災セット侮れず」
都内で賃貸物件5棟17戸を所有する中村謙二オーナー(東京都世田谷区)は、所有する学生向け賃貸アパートに防災セットを常備し、万が一停電や断水が起きても入居者が最低限の生活ができるようにしている。
防災セットの常備は一見ありがちだが、中村オーナーの過去の災害経験に照らせば非常に有効という。その教訓は、2011年3月の東日本大震災で受けたものである。
東日本大震災直後、学生入居者の安否が気にかかったが、中村オーナー自身も仕事の都合上、すぐに物件に駆け付けることができなかった。入居者に電話を掛けてみたもののまったくつながらず、安否確認すらできない始末だった。
震災から数日たち、幸いにも入居者に被害はなく、水道や電気などのライフラインも機能していたことが分かった。ただ、連絡がとれない状況下で、万が一断水や停電が起きた場合でも、数日間をしのげるように防災セットを常備する重要性をかみしめた。中村オーナーは「震災直後はコンビニから食料が消えた。防災セットには乾パンや水を備蓄し、食料の調達が難しい状況にも備えている」と語る。
防災セットには、カセットコンロ、鍋、寝袋、ヘルメット、消火器、水、乾パンなどが入っている。中村オーナーが購入し、計1万円相当のアイテムを透明のコンテナに入れて全8戸に配置。物件は小田急電鉄「玉川学園前」駅から徒歩2分の立地にある木造2階建て、全8戸の賃貸アパートだ。各戸のクローゼットに置いており、内見時には「災害時でも安心だ」と、学生の親から好評だという。
中村謙二オーナー(69)
東京都世田谷区
郡中丸木、安全確認の連絡リストを精査
福島県本宮市や郡山市で約600戸を管理する郡中丸木(福島県本宮市)では、19年の台風19号による水害を受けた教訓を生かして、緊急対応マニュアルを整備した。以前から管理物件の入居者やオーナーの連絡リストを用意して、緊急時には連絡、安全確認をしていたが、「自然災害が起きてしまった場合、スピード感をもって入居者やオーナーに対応しなければならない」(遠藤栄新店長)と、事前準備や災害発生時の対応、その後の入居者や家主への連絡などの手順をあらためて整理した。
19年の台風19号では管理物件の6~7棟の1階部分、30~40戸が被害を受けた。そのうち半数が床上浸水で、入居者の退去も余儀なくされた。同社の本宮駅前店も浸水被害に見舞われ、翌日いっぱい水が引かず、業務再開まで約1カ月間を要した。
課題となったのが、オーナーや入居者の状況把握の手順だ。連絡先を確認しながら対応を進めたが、家主や入居者への連絡のための以前のリストは整理がまだ不十分で、確認に手間取るところもあったという。
エリアや物件によって被害レベルは異なるため、そのときの状況をみて社員間で作業のすみ分けを決めることも大事だ。
ある物件では以前床下浸水の被害を受けた経験から今回の被害を免れた。家主から事前に通気口に土のうを積んでほしいとの要望が同社に寄せられ、市役所から土のうを調達。社員が対策して浸水を防いだ。
災害後は、応急仮設住宅としての県による民間住宅の借り上げ制度にも30~40戸を提供するだけでなく、借り上げ開始までの間も家主の協力を得ながら、住まいを失った被災者の受け入れを行ったという。
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