導入を検討すべき?賃貸仲介の電子契約が可能になった経緯やメリットを解説
統計データ|2023年10月01日
不動産業界では、電子契約が広まりつつあります。特に、賃貸仲介事業において、店舗に足を運ばない「来店不要の部屋探し」や、仲介営業のスタッフと直接会う必要がない「オンライン部屋探し」を提供する会社が出てきました。賃貸借契約をオンラインで完結できる電子契約は、以前から可能だったわけではありません。2022年5月18日に施行した改正宅地建物取引業法(以下、宅建業法)によって、できるようになったのです。電子契約が可能になった経緯と、不動産会社が電子契約を行うメリットなどを紹介します。
§1 そもそも電子契約とは?
紙を使用せずに、インターネット上で行う契約行為のことです。紙の契約で必要な記名や押印を、電子署名・電子サインと呼ばれるシステムで代用します。賃貸仲介事業では貸主と借主が結ぶ賃貸借契約を、また売買仲介事業では媒介契約や不動産売買契約などを、紙ではなく電子的に行うことが宅建業法の改正によって可能になりました。電子契約は、書面で行う契約と同等の効力を持ちますが、契約の方法や契約書の保管方法などが異なります。
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§2 電子契約ができるようになった理由は?
なぜ、賃貸仲介・売買仲介において、電子契約が可能になったのでしょうか。
簡潔に言えば、国の方針です。安全で安心な暮らしや豊かさを実感できるデジタル社会の実現に向けた政府のデジタル政策の一つに、不動産取引の電子化を実現する施策が盛り込まれています。
その施策を受け、国土交通省は2013年4月に検討会を立ち上げました。 検討会では、重要事項説明のオンライン化(IT重説)や、重要事項説明書(以下、重説)と契約書面を電子交付する社会実験を実施。その結果、宅建業法が改正、22年5月に施行されたことで、不動産取引における電子契約が可能になりました。
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§3 電子契約は、どのようなメリットがある?
賃貸仲介における電子契約の代表的なメリットは、借主が契約手続きのためだけに来店する必要がなくなることです。これまで借主は宅地建物取引士と対面し、重説を受けなければなりませんでしたが、電子契約ではスマートフォンやパソコンのテレビ通話機能などを使って、自宅にいながら重説を受けることが可能になりました。契約書類への記入も、手書きではなく電子的な入力で済みます。
契約手続きのための来店が不要になることは、不動産会社にとって、業務の効率化につながります。限られた店舗の客席を新規顧客の接客用に使うことができます。また、IT重説や契約手続きを賃貸仲介の営業担当者が行わず、専門部署で対応したり、社外のスタッフに委託したりなど、分業する会社も出てきました。契約書類を郵送する必要がなくなるので、契約完了までの期間が短縮化することによってキャンセル率が低下したり、郵送コストがなくなったりします。ほかにも、電子契約システムで記入、押印するため、手書きのように記入漏れや書き損じ、字が読みづらいといったことがなくなり、書類不備の確認や再記入の手間を省くことができるなど、さまざまメリットに期待できるようです。
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§4 電子契約を行うのは難しい?
電子契約は、パソコンやスマホなどを使い慣れている若者にとっては大変便利な契約手段ですが、高齢者にとってはどうでしょうか。貸主である不動産オーナーの多くは高齢者で、電子契約に対応できない可能性があります。そのため、電子契約を導入している不動産会社では、賃貸借契約時に管理会社がオーナーの代わりに、契約書に署名や押印を行う代理契約をできるようにしています。代理契約であれば、貸主が高齢者であっても、管理会社がスムーズに電子契約を行うことが可能になります。もしくは、サブリースで賃貸管理を行っている不動産会社は、自社が貸主になるため、電子契約を導入しやすいでしょう。
§5 どんな不動産会社が、電子契約をしている?
電子契約に取り組んでいる不動産会社は、ITによる業務効率化を進めている企業という特徴があります。そのため、電子契約だけでなく、さまざまな不動産実務において、ITシステムを活用しているケースが多いです。例えば、入居者やオーナーとのコミュニケーションをとるための専用アプリ、スマートロックなどの導入です。特に、電子契約に関連する賃貸仲介業務として、VR(仮想現実)内見、入居申し込みや退去申告の手続き、借主が加入する家賃債務保証や火災保険の手続きを電子化し、賃貸仲介事業を一貫してオンライン化している場合もあるでしょう。
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§6 どんなシステム投資が必要?
電子契約を行うために、不動産会社は専用のシステムを導入しなければなりません。IT重説を行うためには、オンライン会議システムの「Zoom(ズーム)」や「グーグルミート」「Microsoft Teams(マイクロソフトチームス)」「Skype(スカイプ)」などの導入が必要です。電子契約のシステムとしては、「ドキュサイン」、「クラウドサイン」、「GMOサイン」など、不動産業務に特化したシステムも提供されています。価格や機能、ほかのシステムとの連携性などを考慮し、どのシステムを導入するか判断しましょう。
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