最新情報追記【レオパレス違法建築問題どうなった?】施工不備問題を総まとめ
レオパレス21,大和ハウス工業,フォートレス・インベストメント・グループ,LPオーナー会,レオパートナーズ倶楽部,さくら事務所
事件|2023年05月08日
【2023年5月8日追記】
2018年4月に発覚したレオパレス21(以下、レオパレス:東京都中野区)の施工不備問題と、業界へ与えた影響を総まとめ。レオパレスの違法建築問題が初めて表沙汰になったのは、建築確認通知書に記載しているはずの界壁がないと家主が指摘したことが発端だ。なぜこのような施工不備が起こったのか、また、その後レオパレスが実施した物件調査や、改修工事の進捗状況について、特集した。最新情報を随時、更新中。
<速報>レオパレス21、施工不備物件の改修目途立たないまま管理解約【2023/5/8追記】
マスターリース契約が終了する物件に対し、修繕計画を明確にしないまま、他社へ管理を引き継がせるケースが発生しており、一部のオーナーから不安の声が上がる。
業界震撼の施工不備、解決道半ば
2022年8月31日時点で判明している要改修工事戸数のうち、工事進捗(しんちょく)率は約70%とまずまずだ。未調査の住戸も多く、要改修戸数は今後も増える予測だ。24年末までに3万5400戸の改修を見込む。22年3月期は4期ぶりの黒字化を達成。社内体制の改革などを行い、再起を図る。
判明済みの7割で改修進む
レオパレスの施工不備問題を振り返るにあたり、まずは問題点を整理する。
これまでに判明している施工不備は同社の建築したアパート7万4532戸に上る(改修工事完了含む)。施工不備の内容は、界壁・天井・界壁内充填(じゅうてん)部材および外壁構成の相違・界壁の耐火構造の不備の4種類だ。
同社は2018年から、施工不備問題の解決に取り組んできた。1棟単位では20年8月末までに99%を調査済みだが、住戸単位の調査は道半ばだ。22年8月31日時点で、調査対象約59万戸のうち、調査済みは12万8785戸と戸数ベースでは21.8%に留まる。22年8月31日時点で、判明済みの要改修戸数7万4532戸に対し改修工事が完了している戸数は5万2123戸。工事進捗率は69.9%と堅調に進む。今後改修が予想される住戸数は、既に不備が見つかっている2万2409戸と、未調査のため今後不備が予測される1万2960戸の合計約3万5400戸を見込んでいる。
レオパレスの違法建築問題が初めて表沙汰になったのは、18年4月にさかのぼる。2人のオーナーから、建築確認通知書に記載しているはずの界壁がないと指摘が入ったことが発端だ。
これを受けて同社は、18年4月27日、1994年1月〜95年12月に建築された賃貸住宅シリーズ「ゴールドネイル」および「ニューゴールドネイル」915棟の調査開始を発表した。調査により対象物件のほとんどで不備が見つかったことから、2018年5月29日には「建築基準法違反の疑い」を認定し、調査対象を拡大。全棟調査へと乗り出した。
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界壁の施工不備は業界に大きな衝撃を与えた。
界壁とは、各住戸間の壁のことを言う。建築当時の建築基準法上では、界壁は遮音、耐火の観点から小屋根・屋根裏まで達しなければならないと定められていた。同社の界壁施工不備では、この小屋根・屋根裏部分の界壁がまったくないもの、界壁はあるが施工に不備があるものが主な問題となった(図1参照)
なお、19年6月の建築基準法改正により、現在ではスプリンクラーの設置もしくは強化天井の採用により、共同住宅の屋根裏の界壁設置は不要となっている。
また、全棟検査を進めている中で新たな施工不備が判明。19年2月に判明したのは、天井部の施工不備、界壁内部充填材の相違、そして外壁構成の不適合だ。同年5月にはさらに界壁の耐火構造の不備も発覚した。
もっとも深刻なのは天井部の施工不備で、3階建ての住宅に求められる準耐火構造基準を満たしていなかった。設計図面の2枚張り仕様ではなく、実際には1枚張りであったものや、2枚張りであっても定められた部材でないなどの不備があった。危険性が高く同月より、該当物件に入居していた入居者約7669人に住み替えを促した。
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界壁内部充填材の相違は、設計図と異なる断熱材が充填されていた。これにより、建築基準法で定められている遮音性能を満たしていないことが判明した。また、外壁構成における不適合でも、設計図面と異なるパネルが使用されていた(図2参照)
棟ごとの調査は20年8月に99%完了しているが、改修工事の進捗は当初予定より大幅に遅滞している。工事遅滞の要因は主に人材不足だ。
19年4月時点で在籍していた社内の建築士382人のうち、20年3月までに71人が退職。施工管理技士などの技術者42人も同社を去った。
今後も3万5400戸の改修を見込んでおり、問題解決までの道のりはまだ遠い。
建築基準法規則改正に影響
レオパレスの施工不備問題の影響は、一社だけにとどまらない。同社に引き続き19年4月に施工不備が発覚したのは大和ハウス工業(大阪市)だ。約4000棟で設計図面との差異があった。なお、その後の調査により改修工事を要する物件は全77棟と判明し、既にすべての物件の改修が完了している。
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レオパレスの施工不備問題を発端に、国土交通省は18年3月から「共同住宅の建築時の品質管理の在り方に関する検討会」を計4回にわたり実施した。
検討会では、2社の施工不備問題の原因究明を行うとともに、他社への調査にも乗り出した。年間で1000戸以上の共同住宅を供給する企業に対し施工不備がないかの調査を指示。その結果、レオパレスと同様の施工不備は見当たらなかった。
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検討会の結果を受けて、制度面での改正を行った。中でも重要な変更点は2点ある。建築基準法に基づくガイドラインの策定と規則の一部改正だ。
図面と実態が異なっていたというレオパレスの問題を受け、同様の事案が発生しないように適正化のためのガイドラインを作成した。同ガイドラインに準拠するよう、建築基準法に基づく規則書式を変更。共同住宅の施工途中における中間検査において、設計図面と現状との照合方法の記載を盛り込んだ。
同規則は、19年10月1日に公布し、20年4月1日に施行している。
経営難直面も4期ぶり黒字
一連の施工不備問題はレオパレスの経営危機も招いた。入居率が悪化し、19年3月期から3期連続の大幅赤字を計上。一時、自己資本はマイナス84億円と債務超過に陥り、上場廃止の可能性もあった。
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施工不備問題が起こる前の18年3月期は売上高5308億円、純利益148億円と堅調だったが、19年3月期には純損失686億円に転落。続く20年3月期は802億円の巨額損失となった。
2期連続の最終損失を受け、レオパレスは20年6月に抜本的な経営改革を発表。それまで進めてきた多角経営をやめ、事業の選択と集中を行うことを決めた。ホテル事業から撤退し、賃貸事業は新規の建築受注を停止。経費削減策も実施し、1000人の希望退職者を募った。改修工事の内製化などにより工事単価を低減した。
経営改革に伴い行ったのは、賃料の適正化だ。借り上げ家賃を見直し、大幅な減額を行う契約も発生した。
これは営業原価の削減に寄与したものの、大規模な借り上げ家賃減額は「一方的だ」として一部のオーナーとの間に訴訟を招いた。
オーナーからの同意を得ずに減額した借り上げ家賃を振り込んだ事例もあり、それらのオーナーから提訴されている。ほとんどのケースで裁判開始前に減額分の差額を振り込むか、和解に至っている。
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資金の調達にも奔走した。20年11月には経営危機を脱するため、フォートレス・インベストメント・グループ(米国・ニューヨーク州)より572億円を調達。その多くを改修工事費用に充てるとした。結果、21年3月期の最終赤字は236億円と前期よりも縮小したものの、自己資本率はマイナス5.3%と、前期の0.7%から大幅に悪化し、上場廃止の危機を招いた。
だが22年3月期、レオパレスは4期ぶりの最終黒字を達成。経営改革の実績が表れた結果となった。今後は、オーナーとの信頼関係の回復が、同社にとっての課題の一つになるだろう。
分かれるオーナーの評価
レオパレスに対するオーナーの評価も大きく分かれる。
同社に強硬な姿勢を崩さないオーナーも存在する。同社に管理を任せるLPオーナー会(愛知県名古屋市)の前田和彦会長は「レオパレスは減額した家賃を原資に改修工事を進める考えだ。もとはレオパレスの瑕疵(かし)であるのに、オーナーに負担を強いる姿勢は許せない」と話す。同会はこれまでに4件の集団訴訟を行っている。
一方、レオパレスと二人三脚で業績回復を支える姿勢を見せるのが、オーナー350人が加盟するレオパートナーズ倶楽部(東京都中野区)だ。同会の田中悟会長は「同社は過ちを認め、真摯(しんし)に対応している」と話す。所有物件の改修工事の進捗状況は、オーナー専用サイト上で、写真付きで都度確認ができるようになっている。オーナーへの説明会の場などでも、レオパレスの宮尾文也社長は相手が納得するまで説明を行っていると言い、「今後のさらなる業績回復に期待している」(田中会長)
レオパレスは今後も抜本的な構造改革を継続し、入居率の改善や賃料適正化を進めていくとする。第三者委員会の提言を受けて、コンプライアンス重視の体制にするための施策も行う。具体的には経営層と社員が直接話す場を設けたり、人事評価を多面評価したりと企業風土の改革に努めている。
建築請負の再開については、7月13日の株主総会の質疑応答で「2、3年で方向性を示していきたい」と回答。23年3月期には売上高4108億円で22期3月期比3.1%増、営業利益は117億円で同559.2%増を見込み、引き続き経営再建に取り組む。
さくら事務所、インスペクション依頼20%増 「企業への不信感あるのでは」
住宅インスペクションを手がけるさくら事務所(東京都渋谷区)ではレオパレスの施工不備問題の発覚後、建築途中のインスペクション依頼が増加。19年の依頼数は、18年と比較し約120%となった。
同社にインスペクションを依頼するのは、ほとんどが個人の建築主。レオパレスの施工不備問題を受けて「企業側の自主検査を信頼できないと不信感を持ったのではないか」とさくら事務所の長嶋修会長はみる。
長嶋会長は「レオパレスに限ったことではない」としつつ、施工不備が起こった根本的な要因として、2点を挙げる。営業や企画部門を重視し、建築部門の立場が低くなっていたことと現場の人手不足だと推察する。
本来なら施工管理者が一人で同時に担当できるのは8現場程度。だが実際は20〜30現場を任せている企業もあるという。
今後は人手不足解消のため、施工管理をロボット化することが必要だとする。同様の事例を起こさないために「契約後の施工管理をきちんと行うことが、企業の信頼につながることを意識してほしい」と長嶋会長は話した。
さくら事務所
東京都渋谷区
長嶋修会長(55)
【取材を終えて】
今もなお、施工不備問題の解決は道半ばのレオパレス。業界大手として、業績と信頼を回復して欲しい。賃貸住宅を建設する各社も、対岸の火事ではなく、自社のコンプライアンス順守が行われているかを改めて確認する必要がある。(柴田)
(2022年10月10日4・5面に掲載)